何の問題もなかった1on1の直後に辞める従業員

この本の序章の章題はこうです。

「笑顔の1on1ミーティング」の翌週に辞める若者

期待をかけ信頼を置いていた従業員が、何の問題も話さなかった1on1の直後にいきなり退職する、という話はよく見聞きします。ご支援する経営者から直接お話をうかがったことも何度かあります。これは経営者にしてはたまらないでしょう。

「せめてひとこと相談してくれればいいのに」

そう思いますよね。

この本の第2部の章題は「なぜ、若者は突然会社を辞めるのか?」なぜ若者は突然会社を辞めるのでしょうか?

個別の会社にあてはめてしっくりくる答えは必ずしも得られないかもしれません。社内新人研修やメンター制度の運用をしていない会社にとっては抱えている痛みに少し違和感がありそうです。小規模な企業で働く「若者」にはまた少し違った実像があるかもしれませんし、ひとりひとりの顔が見える規模でむりに「若者」という像でひとまとめにする必要もないかもしれません。

全編を通じて「とにかく正解を求める若者たち」の実像が饒舌に描かれているわけですが、若者たちとそれを取り巻く大人たちの傾向にはしっくりくる記述がいくつも書かれています。本書はもともと雑誌の連載「考えさせたい大人、答えが欲しい若者」に書き下ろしを加え、改題、加筆、修正したものとのこと。残念な大人と残念な若者、いくつかの点でしっくりきます。

若者を理解し、変えようとしない

第1部の「『1on1の前』に知っておくべきこと」には、1on1にのぞむ大人のための処方箋が示されています。曰く、若者を理解し、変えようとしないこと。

理解の助けになるかもしれない若者の1on1に対する6つのタイプ。『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』でもそうでしたが、リアルな若者に寄り添おうとする言い回しがとても鮮やかです。

  1. 積極志向「どんどん有効活用したいです」「もうないと困ります」
  2. 日常志向「まあ普段から話してるし、いらないんじゃないですかね」
  3. 合理志向「業務伝達としては機能してると思います」
  4. 表面志向「お互いやらされ感ありますよね」
  5. 最低限志向「どうしても必要というのであればやりますが」
  6. 回避志向「なるべくやらない方向でお願いします」

大事なのは「いい子症候群」の心理を理解してあげ、そのマインドを変えようとしないこと。臆病で回避したがる若者にも、十分に会社や社会へ貢献できることがある、そのことを若者が少しずつ知っていく過程を支援すること。

ただし、過度な期待は禁物とのこと。その仕事が会社にとって重要で、社会に対する貢献度が大きければ大きいほど、回避志向の若者は「圧」を感じるそうです。夢や目標や期待が大きければ大きいほど若者には気合が入る、わけではないようで。「期待」は回避志向の若者にとって悪夢のひとつだというので、なんとも面倒くさい話ではありますね。

採点結果が返されない試験は単なる拷問

この本でいちばん面白かったのはこの記述です。

採点結果が返されない試験は単なる拷問だ。タイムを計らないタイムアウトから学べることは少ない。

だから適切なフィードバックが必要だと書かれています。部下やメンバーは、自分の行動と結果の因果関係が知りたいのだから。上司やリーダーは、可能な限り「評価」を排除して、端的で具体的な情報のフィードバックに努めるのがよい。理想的なのは、シューティングゲームの得点、ロールプレイングゲームの経験値、自動車のタコメーター、ウォーキングの万歩計。

なるほどこれは実行可能な行動指針になるかもしれません。どう思われますか?

静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと ペーパーバック – 2024/1/23

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