Andoroidアプリケーション開発コミュニティの方々のお話を聞いたり書かれたものを読んだりするのが近頃はとても好きです。そしてそこでたまに感じる違和感。「スマホ」っていったい何なのでしょう?

「スマホ」はもちろんsmartphoneを由来とする外来語です。省略の具合がとても日本語的でいいですよね。

「スマホ」は「ガラケー」と対比する文脈でよく使われます。ガラケーは「ガラパゴスケータイ」の略です。鎖国主義の閉鎖環境の中、世界的に見ると奇異にさえ見える独特の進化を遂げた日本の多機能携帯電話のことを揶揄(というか自己卑下)してこう呼ぶんですよね。前向きな表現が求められるオフィシャルな場では「フィーチャフォン」という言葉が使われるようです。

「ガラケーからスマホへビジネスがシフトするいまこそがチャンスであって便乗しない手はないですよね。まさか乗り遅れる気ですか?」

流行る力のあるキーワードをバズワードとして浪費してゆくのもまた商売の常です。だからいいのです。けどスマホには何か少し違和感を感じませんか。

そもそも「スマートフォン」とは何なのでしょう? これが意外に難しい。

英語で書いたsmartphoneの定義は簡単です。define:Smartphoneをググれば今日の時点では以下の引用ような結果が出てきます。つまりは「PCみたいな、PDAみたいな、電子メールできたりインターネット接続できたり、音声通話以外のこともできる多機能な携帯電話」。え? それってつまりフィーチャフォンのことであって、ガラケーのことですよね?

Smartphone のウェブでの定義(英語):

  • A smartphone is a mobile phone offering advanced capabilities, often with PC-like functionality (PC-mobile handset convergence). There is no industry standard definition of a smartphone. …
    en.wikipedia.org/wiki/Smartphone
  • Electronic handheld device that integrates the functionality of a mobile phone, personal digital assistant (PDA) or other information appliance
    en.wiktionary.org/wiki/smartphone
  • A telephone that provides additional information accessing features. Any mobile telephone that combines voice services with e-mail, fax, pager or Internet access is called a smart phone.
    ceva-dsp.mediaroom.com/index.php
  • smartphones – are cell phones that are no longer limited to making voice calls. This category includes devices such as the BlackBerry, the Razr, the iPhone and the Palm Treo. …
    www.sag.org/content/new-media-glossary

つまり言いたいことはこういうことです。もともとsmartphoneという言葉を使っている国では、まだ通話目的に特化した単機能な携帯電話(mobile phone, cell phone)が現実的な存在としてイメージできているのでしょう。だからこそその対比としてsmartphoneという言葉に意味がある。具体的にはそれはBlackBerryのことであって、iPhoneが新風を吹き込みAndroid陣営が追従した。とてもわかりやすいですね。

一方、カタカナで書いた「スマートフォン」はどう定義すればよいでしょうか? シルクを大きな文字で印刷したお年寄り向けの「らくらくホン」などですら電子メールも画像データの取り扱いも当たり前なのが日本です。この市場において、iPhoneやAndroidの「新しさ」はどう定義しますか?

Nexus Sに初搭載でこれからが期待されているNFCは、日本ではとっくに当たり前になっているモバイルスイカやお財布ケータイなんですよね。(私は普段使いはiPhoneですが、Nexus Sは買いました。)

モバイル風味のブラウザも、あえてPC風味なフルブラウザも、PDAのようなPIMも、カメラも音楽も動画も、サードパーティが作ったアプリケーションを追加インストール可能なプラットフォームも、キャリアによる課金代行も、ずいぶん以前から日本の「ガラケー」では当たり前です。なにしろフィーチャフォンですから多機能ですよ。もしそういうことをスマートフォンと呼ぶなら、ガラケーは従来からスマートフォンだということですね。実際、smartphoneの国において将来を占う仕事をしているひとたちは、普通に日本の市場の過去を分析してあれこれ言っています。

Internet Trends 2010 by Morgan Stanley Research

ガラケーは昔からsmartphoneであるにも関わらず「ガラケー vs.  スマホ」の構図を成り立たせる「スマートフォン」という日本語(「もうガラケーの時代じゃないよこれからはスマホだよ」)。これはいったいどういう意味なんでしょうか?

タッチスクリーン? 物理的なQWERTYフルキーボード? 実質的にはほぼ常時接続のインターネット? ほとんどのプロトコルをそのまま通してくれるインターネット接続?

定義する特徴を考えるとなかなか難しい。だから違和感を感じるのですね。日本語の「スマホ」。

もちろん、確信犯で使うのはいいと思います。なんであれビジネスチャンスですから、大いに活かしましょうね。

カテゴリー: Device